クリスマス☆バトル
「コナン君、まだ寝ないの?」
「蘭ねえちゃんこそ、まだ起きてるの?」
クリスマスイブの夜。
毛利家にて、ささやかなクリスマスパーティが行われ、ケーキやチキンやジュース(一人はアルコール)やら、ごちそうをたらふく食べた幾時後。
大いに飲んで、寝てしまった大人を余所に、
静かに、戦いの火蓋は切って落とされていた。
「だってまだ、片づけしなきゃならないんだもん」
「この本、面白いから全部読んじゃいたいんだもん」
もう、ずいぶんと夜は更けてきているというのに、まだ寝ようとしない2人。
「夕食の片づけは、ボクも手伝ってさっき終わったじゃない」
「その本、前に読み終わったんじゃなかったっけ?」
コナンの両親に代わって。
“新一”に代わって。
「学校から持って帰ってきた荷物、ほったらかしだから。部屋の片づけがあるのよ」
「読み終わったけど、まだ1回だけだから。何度か読まないと、話がよくわかんないだよ」
お互いが、お互いの“サンタクロース”になろうと企んでいたから。
「もう遅いから、片づけは明日でもいいんじゃないの?」
「もう遅いから、続きは明日にしたら?」
お互いが、お互いに、早く寝て欲しかったのである。
顔はニコニコしながら、しかし腹の底では熱く激しい炎が燃え上がっている。
「まだお風呂にも入ってないし、わたしはまだ寝られないのよ」
ここでコナンは、言葉に詰まってしまった。
蘭が持ち出した理由は、説得力があった。
しかし、もうすでにお風呂も歯磨きも済んで、コナンには本を読む以外に『まだ寝られない』理由が見あたらない。
「…………じゃあ、キリのいいとこまで読んだら寝るよ」
コナン一敗。
それでも、なんとか『すぐに寝る』とは言わないように努める。
一方、一勝した蘭は、嬉しそうににっこり笑って、自分の部屋へ入って行った。
それから、十数分後。
蘭がお風呂に入る用意をして、部屋から出てくると、まだコナンは本を読んでいた。
「あれ?コナン君、まだ寝てなかったの?」
まだ戦いに負けたわけじゃないと言わんばかりに、コナンは言い返す。
「なかなかキリのいいところにならないんだよ」
「そうなの?でも、早く寝なさいよ?」
それだけ言って、蘭は風呂場へ行ってしまった。
早く寝ろと言われても、素直にそれに従うわけにはいかない。
しかし、蘭は意外に長風呂で、なかなか出てこない。
待ちながら本を読んでいるうちに、コナンは本当に眠くなってきてしまった。
今日、学校は終業式だった。
早々に学校が終わり、これから冬休みに入ることと、今日がクリスマスイブであることで、ハイテンションの少年探偵団に捕まってしまい、コナンは子供達の遊びに散々付き合わされたのである。
その疲れが、出てきたようだ。
コナンは1つ、大きく欠伸をした。
「そんなに大きな欠伸して。もう寝たら?」
やっと風呂から出てきた蘭に見られてしまった。
「今日は、みんなといっぱい遊んでたみたいだもんね。疲れたんでしょ?」
ここぞとばかりに、蘭は温存していた武器を持ち出してきた。
「蘭ねえちゃんこそ、今日は学校もあったし、パーティの買い物とか用意とか大変だったから、疲れたんじゃないの?」
今となっては、コナンの対抗手段もあまり効果はない。
それどころか、それを逆手に取って反撃されてしまった。
「コナン君がいっぱい手伝ってくれたから、そんなに疲れてないのよ♪
ありがとう、コナン君。今日は1日ご苦労様でした。ゆっくり休んでね。おやすみ♪」
これ以上なく、蘭はコナンににっこり微笑を投げかける。
コナン二敗。
もう後がない。追いつめられてしまった。
「…………おやすみ、蘭ねえちゃん」
言いながら、また欠伸が出そうになって、コナンは思わずそれを噛み殺した。
しかし、もう遅い。
蘭は相変わらずニコニコして、コナンが部屋に入るのを見送ろうとしている。
コナンは仕方なく、すごすごと部屋に入っていった。
部屋に入っても、もちろんすぐに寝るつもりはなかった。
しばらく待って、蘭が寝たスキに用意していたプレゼントを…………と思っていた。
しかし、蘭はいつまで経っても寝そうにない。
何かを片づけているらしく、引き出しを開け閉めする音や、髪を乾かすドライヤーの音が聞こえてくる。
コナン惨敗。
隣の部屋から聞こえてくる、いろいろな音を聞いているうちに、いつしか眠りに落ちてしまっていた。
「…………コナン君、起きてる?」
蘭は、扉の外から念のため声をかけてみた。
しかし、中から聞こえてくるのは、小五郎のいびきばかりである。
「コナン君?」
もう一度、さっきよりは少し大きな声で声をかけてみたが、やはり返事はない。
蘭は、そっと扉を開けてみた。
ふとんも着ずに、コナンが寝ているのが見えた。
蘭はそっとコナンに近寄り、顔を覗き込んだ。
コナンは、メガネをかけたまま熟睡していた。
規則的な寝息が聞こえてくる。
起きていようとして、知らないうちに寝てしまったため、コナンはふとんを着ず、メガネも外さずそのままの状態だったのであった。
蘭は黙ってコナンの枕元に手に持っていたそれを置くと、微笑みを浮かべたまま部屋を出ていった。
朝になり、目が覚めたコナンは、枕元を見、次に時計を見て愕然となった。
「やられたな………」
枕元には、きれいにラッピングされた包みが置いてあった。
時計は、8時をまわっていた。
先に寝てしまったからには、蘭よりも早く起きようと考えていた。
しかし、昨夜無理して遅くまでがんばってしまったため、その計画も失敗してしまった。
着替えて、起き出す。
リビングに出てみると、すでに朝食が用意されてある。
蘭は、台所で何やら用事をしていた。
洗顔などを済ませ、再びリビングに入ると、蘭が昨夜よりもさらに、にこにこして待っていた。
「おはよう、コナン君!」
「おはよう……」
蘭からは、それ以上何も言わなかったが、蘭が何を期待しているのかは容易にわかった。
コナンは、一度部屋に戻り、枕元に置かれていた包みを取ってきた。
「蘭ねえちゃん。これ、ありがとう」
「えー!わたしじゃないよ。サンタさんが来たんでしょ?コナン君、良かったね!」
実にわざとらしい。
予想通りの答えに笑いを堪えつつ、コナンは蘭に聞いてみた。
「サンタさんが来たんだ!じゃあ、蘭ねえちゃんのとこにも来たんだよね?」
「わたしはもう大きいから、サンタさんは来ないのよ」
「え〜〜そうなの?
蘭ねえちゃん、ちゃんと枕元見た?」
「え?見てないけど……」
「本当に来てないかどうか、ちゃんと見てみなよ」
どうも、見てこないとコナンは納得しない様子である。
仕方なく、蘭は部屋を覗いてみた。
「何もないって………………あれ?」
ベッドの枕のあたりを見てみると、そこにはきれいなリボンがかけられた包みがあった。
「ほら!蘭ねえちゃんのとこにも、サンタさんが来てるじゃない!」
苦肉の策。
蘭が台所にいる間に、コナンは素早く、そこにそれを置いたのであった。
包みを手に、蘭はコナンの前に座った。
「コナン君、ありがとう!」
「え〜!ボクじゃないよ。サンタさんでしょ?」
そう言って、コナンは笑った。
「開けてもいい?」
2人同時に言って、思わず吹き出す。
「何で聞くの?サンタさんがくれたんだから、聞かなくてもいいんじゃない?」
コナンの追い上げで、両者引き分け。
ノー・サイド。
試合の後は、敵味方なく、一緒にクリスマスプレゼントを楽しもう。
おわり
2002.12.25