only to you, only from you





 きっかけは何だったのか。
 テレビで見たドラマのワンシーンが気になったのか。
 何気なく耳に入ったクラスメイトの会話だったのか。
 今となっては、もう覚えていない。


(新一は、どう思ってるんだろう…………わたしのこと…………)


『……蘭。 蘭? 聞いてる?』
 受話器の向こうから呼ばれて、蘭はハッと我に返った。
「あ、ごめん。 誰か来たかと思ったんだけど、違ったみたい」
 人の気配に気を取られていた振りをして、咄嗟に誤魔化した。


“新一は、わたしのことどう思ってるの?”


 今度、新一から電話が掛かってきたら、思い切って聞こう、と心に決めていた。
 でも、実際にそうなると、躊躇われてやはり口には出せない……。
『じゃ、また電話するから』
 そう言って、新一は電話を切ってしまった。
 蘭も受話器を置き、ふぅ、とため息を吐いた。
(やっぱり、聞けないよ……)
 蘭はしばらくそこに座ったまま、ぼんやりしていた。


「ただいま〜」
 コナンの元気な声が響いても、蘭の耳には届いていなかった。
「蘭ねえちゃん?」
 名を呼ばれて、蘭は初めてコナンが帰ってきたことに気付いた。
「あっ、コナン君お帰り」
「どうしたの? どっか具合悪いの?」
 蘭がぼんやりしたまま呆けていたので、コナンは心配そうに表情を曇らせた。
「う、ううん、なんでもないの。 ちょっと晩ごはん何がいいかな〜って考えてただけ」
「そうなの? で、決まったの? 晩ごはん」
「うん、決まったよ。 今から作るからね」
 そう言って、蘭はにこっと微笑んで、台所に行ってしまった。
 その後ろ姿を、コナンは怪訝な顔で見つめていた。
(何だ? 蘭のヤツ……さっき電話した時も、ちょっと変だったよな……)
 そう思いながら、コナンはランドセルを置きに小五郎の部屋に向かった。


 蘭はコナンの視線を背中に感じながら、コナンを誤魔化せていないことに気付いていた。
 誤魔化せていなくても、
 自分が何を考えているかまではコナンに見抜けていないことにも。
 でも、自分からは、何も言えない。言うことができない。
 新一にも、コナンにも。


 こんなに側にいるのに、あなたは何も言ってくれない
 どうしてあなたは、わたしの側にいるの?
 そう思うのは、わたしの自惚れなの?
 たった一言、それだけでいい
 他の言葉は何もいらない
 だからお願い……教えてください……


 ++++++++


「コナン君、用意できた?」
 ひょこ、と蘭は自室から居間を覗いた。
「………………うん。 いつでも出られるよ……」
 コナンはとっくに用意はできていた。
 着慣れたいつもの服なので、準備に時間はかからない。


 蘭の用意が終わるのを待っていたのだが、その蘭の姿に見惚れてしまい、
 一瞬返事が 遅れてしまった。
 蘭は肩が露わな紅いドレスを身に纏っていた。
 前にも見たことがあるドレスではあったが、いつ見ても蘭によく似合っている。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
 言いながらコートを羽織って蘭の肌が見えなくなったので、
 少しホッとてコナンも首にマフラーを巻いた。


 外に出てみると、雨がぱらぱらと降りだしたところだった。
 2人は傘を差して、クリスマスパーティーの会場である園子の家へと歩き出した。
「雨が降るなんて、生憎だね」
「雨じゃなくて、雪ならいいのにね。 ホワイトクリスマスになって」
 たわいない会話を交わしながら、
 途中、園子へのクリスマスプレゼントを買うため、 店に寄る。
 前にも来て、目星をつけていたので買い物は早い。
「コナン君、ここでちょっと待っててくれる?」
 言われて、コナンは蘭の傘を預かり、店の外で待っていた。
 小降りだった雨が、いつの間にか本降りになっていた。
「天気予報じゃ、雨が降るなんて一言も言ってなかったじゃねーか……」
 誰に言うわけでもなく呟いて、コナンは空を見上げた。
 程なくして店の扉が開き、蘭が現れた。
「おまたせ」
 コナンが預かっていた傘を蘭に渡そうとしたその時。
「きゃあっ!」
 突然鈍い音がしたかと思うと、蘭の身体が雨の中に吹っ飛ばされた。
「蘭ねーちゃん!?」
 水浸しの路上に倒れた蘭の身体の横を、若い男が走り去って行く。
「このっ!」
 コナンは咄嗟に持っていた傘を男の足元めがけて投げつけた。
「うわっ!」
 傘が男の足に絡まり、バランスを崩して男が転倒した。
 男が立ち上がろうとした瞬間、コナンは道端に転がっていた空き缶を蹴った。
「うぐっ!」
 空き缶は見事、男の頭に命中し、男は怯んだ。
「こらー! 待てーっ!」
 店から店員が現れ、男のところに駆けて行く。
 店員が男の腕を掴み、立たせてこちらに連れてくるのを確認すると、
 コナンは蘭のところに駆け寄った。
「蘭ねーちゃん、大丈夫?」
「うん……ビックリしたけど。 あの人がぶつかってきたのね」
 蘭はすでに身体を起こしていたが、何が起こったのかわからずに
 ずっとそこに座ったままで、騒動の一部始終を見ていた。
 店員と男が蘭たちの横を通るときに、ようやくことの次第は理解できた。
「どうしてこんなことしたんだ?」
「彼女に……彼女への、プレゼントが欲しかったんだよ!
 ……この不景気で仕事も見つからなくて、金がなかったから……」
 店員と男の会話が聞こえ、どうやらこの若い男は恋人へのプレゼント欲しさに
 万引きをしたところを店員に見つかり、咄嗟に逃げたらしいことがわかった。
 その時に、ちょうど店の扉の外にいた蘭とぶつかったのである。
 それを聞き、蘭はすっと立ち上がると、男の前に立った。


「盗んだものをプレゼントしても、彼女は決して喜びませんよ。
 本当にあなたが彼女を想っているのなら、物なんていらないんです。
 たった一言、その想いを表す言葉があれば……
 他には何も、いらないんです……」


 蘭は強い光を湛えた、しかし悲しげな瞳で、男をじっと見つめた。
 男は驚いて蘭を見ていたが、何も言わずに黙ったまま、
 店員に促されて店の中に消えていった。


(蘭………)


 蘭がさっき男に言った言葉は、蘭自身の想いなのだと。
 雨に濡れた蘭の、どこか憂いを帯びた後ろ姿を見ながら、
 コナンは初めて、蘭の様子 がおかしかった原因に気付いた。


 ++++++++


「どうしたの、2人とも!?」
 蘭とコナンがびしょ濡れでやって来たのを見て、迎え出た園子は声を上げた。
「うん……ちょっと、ね」
 詳しいことは後にしようと、蘭は笑って誤魔化した。
「着替え持ってるから、どこかで着替えさせてよ、園子ねーちゃん」
 蘭とコナンがこれからパーティーに行く途中だと知った、事件があった店の店長が、
 せめてものお礼に、と着替えの服を2人にくれたのだった。
 店長は裏の店員用の控え室で着替えて行けと言ったのだが、もう時間に遅れているし
 店から近いから、と言って蘭がその申し出を断り、
 慌てて園子の家までやって来たのである。
「そんなに濡れてちゃ、一度シャワー浴びた方がいいでしょ。
 確か、空いてる客間が あったから、そこ使ったらいいよ」
 園子が案内してくれた部屋は、まるでホテルの一室のように、
 各部屋にバスルームとトイレがついている来客用の寝室だった。
 蘭とコナンは別々の部屋に入り、それぞれ着替えをすることになった。


 熱いシャワーを浴び、スッキリして浴室から出たコナンは、
 もらった着替えの袋を開けて、固まっていた。
「…………なんだこりゃ……」
 開けて出した服は、ズボンは普通のものだったが、上着は青く、
 真っ白でふわふわの襟がついた服だった。
 ボタンも、真っ白で丸いふわふわである。
「………まあ……クリスマスらしいけどよ…………
 オレにこれ着ろってか? あの店長 ……」
 コナンはこの服をくれた、
 丸い体型の人の良さそうな店長の顔を思い出しながら、毒気付いた。
 正直、着替えをくれると言われたときは、有り難いと思ったのだが、
 その時の感謝はどこへやら。
 他に着る物のないコナンは、仕方なくその服を着た。


 着替えが済んで、パーティー会場に行くと、蘭はまだ来ていないようだった。
 コナンを見つけた園子が、妙な笑いを浮かべながらやって来た。
「あら〜〜コナン君! かわいいじゃない、その服♪」
 あんたにしては珍しい衣装ね、と言わなくても顔に書いてある。
(くそ……やっぱりコイツに何か言われると思ったぜ……)
 予想通りの園子の反応に、
 コナンはあの店長に、後で文句を言ってやろうと心に決めていた。
「この服、さっきもらったばかりで中身見てなかったから……」
 言い訳がましく、コナンはさっきの事件を園子に説明した。
「へえ〜、それであんなに濡れてたのね。 大変だったわね」
 話を聞き、園子は驚いた表情をした。
「でも……コナン君がその服なら、蘭はどんな服だろうね」
 何気なく園子が言った言葉に、コナンはドキッとした。
(そう言われれば、そうだな……)
 自分の服に気を取られていて、蘭の服のことには考えが及んでいなかった。
「もしかして、よくテレビとかで見るサンタクロースの女の子版、
 みたいな赤いミニのワンピースだったりして」
「ハ、ハハ……」
 園子は冗談のつもりで言っていたが、コナンは顔が引きつっていた。
 とその時、急に辺りがざわめき、会場の空気が色めき立った。
「ら、蘭……!」
 園子が見開いた目で見つめる先を、コナンも振り返って追った。
「!」
 蘭の服は、蘭が元から着ていたのと同じ、肩が露わに見える紅いドレスだった………
 …が。
 胸元が大きく切れ込んでいて、胸元……というよりも、胸の谷間がまる見えである。
 否が応にも目が引き付けられるその妖艶な姿に、コナンや園子だけでなく、
 会場にいる人間全員の視線が蘭に釘付けになっていた。
 蘭自身はというと、コナンと園子を捜すことで頭がいっぱいで、
 そのことには全く気付いていなかった。
 会場内をきょろきょろと見渡して、ようやく捜し人を見つけると、
 安心してぱぁっと顔を綻ばせ、小走りにそこへ向かった。
「園子! コナン君!」
 蘭が一歩踏み出すたびに、美しい曲線を描く豊満な胸が揺れる。
 コナンは最早、言葉を発することができず、ただ呆然とその様を見つめていた。
「…………いやはや、そんなドレスとはね……参ったわ……」
 目の前まで来た蘭に向けるでもなく、呟くように園子は言った。
「ん? 何か言った? 園子」
「別に」
 2人が会話を続けている横で、
 コナンは間近に迫った蘭の姿から目が離せなくなっていた。
 腰のすらりとした曲線。柔らかいカーブを描くヒップライン。そして……。
 胸の切れ込みから覗く肌は、普段は決して露出することがないことを示すように、
 その白さが眩しかった。


「園子さん、こちらの方は?」
 2人の間に、黒のタキシードに身を包んだ若い男が、突然割って入ってきた。
(やっぱり来たわね……)
 園子は心の中で呟いた。
 この男は、鈴木家のパーティーに時々顔を出す、プレイボーイで
 有名な大企業の跡取り息子だった。
「学校の友達よ」
 園子は蘭の名前は出さず、素っ気なく答えた。
「ほう……園子さんのご友人に、こんな美しい方がいらっしゃったんですね。
 紹介してはいただけないのですか?」
「それは無理ね。この娘はもう売約済みなのよ」
「園子!」
「えっ?」
 園子が不敵な笑みを浮かべて言った言葉に驚いた蘭は、思わず声を上げた。
 それと同時に、男が戸惑い、ほんの一瞬隙ができる。
 この一連のやりとりに、我に返っていたコナンは、
 そのほんのわずかな隙を見逃さなかった。
「あのさあ! ボク、お手洗い行きたいんだけど、場所わかんないから連れてって!」
 そう言って、蘭の手を取ると、コナンは強引に蘭を引っ張って会場の出口へ向かった。
「え? あっ、ちょっと!」
 男に軽く会釈するのもままならないまま、蘭は会場から姿を消した。
 あっという間の出来事に、男はぽかん、と口を開けたまま突っ立っていた。
 それを横目に、園子はフフ、と微かな笑みを漏らした。
(さすがね……わたしが作ってあげた隙を見事に利用したわね……)
 園子は、あまりいい噂を聞かないあの男を追い払うだけのつもりであったのだが。
(まさか、連れてっちゃうなんてね……そこまでするとは思わなかったわ)
 感心とも呆れともつかぬ笑みを浮かべて、園子は他の客の相手をしにその場を離れた。


 コナンは、戸惑う蘭の手を掴んだままずんずん歩き、パーティー会場から少し離れた
 ガラス張りのルーフテラスにやって来た。
 前のパーティーでは使われていた場所だったが、今日は使われておらず、
 照明が落とされていて薄暗い。
「どうしたの、コナン君? お手洗い通り過ぎちゃったけど……」
 蘭の問いには答えず、コナンは黙ったまま外灯の光が入る窓際まで歩いていった。
 仕方なく、蘭もその後を付いて行く。
「わあ……!」
 外の風景が視界に入るなり、蘭は思わず感嘆の声を漏らした。
 来るときに降っていた雨が、いつの間にか雪に変わっていた。
 静かに舞い降りる数多の雪が、外灯の光に反射して辺りをより明るく照らしていた。
 庭の立木にはイルミネーションが施されており、
 その姿が闇に美しく浮かび上がっている。
 蘭はその幻想的な景色を、うっとりと眺めていた。


「……お手洗いに行きたい、ってのは嘘だよ」
 不意にコナンが口を開いた。


「え?」
「一瞬でも早く、人の目の届かない所に、蘭ねーちゃんを連れて行きたかったんだ」
「ええ? どうして?」
 コナンは顔は動かさずに目だけでチラリと蘭の方を見ると、
 また窓の外に視線を戻して言った。
「だってさ……そのドレス………………
 蘭ねーちゃんは、着るとき何も思わなかったの?」
 コナンの頬はわずかに染まっていたが、蘭からそれは見えてはいなかった。
「え? このドレス? 
 …………うん……実はね、ちょっと大胆かな〜?って思って
  最初は少し恥ずかしかったんだけど……」
(“ちょっと”どころじゃねーよ!)
 コナンは蘭の話を聞きながら、
 相変わらずな蘭の感想に突っ込みを入れずにはいられなかった。
「着替え手伝ってくれたメイドさんとか、
 会場に入る前に会った園子のお母さんとかお姉さんとかがね、
 すっごく似合ってるって言ってくれたから……」
 それで不安はなくなったのだと言いたいらしい。
 しかしコナンの態度を見て、蘭の心の中にまた不安が芽生えだした。
「でも……やっぱり変かなぁ……コナン君は、変だと思ってるんでしょ?
 だから人のいないこんなとこまでわたしを連れて来たってことなんじゃないの?」
「ち、違うよ! そんなんじゃ……!」
 少し悲しげな蘭の声音に耐えきれず、コナンは蘭の方を振り向いた。
 が、白い肌が雪明かりにくっきりと浮かび上がる、
 さっき見たときよりもずっと妖艶な蘭の姿に声は詰まり、一気に顔が赤くなった。
「蘭ねーちゃんに……すっごく似合ってるよ、そのドレス。
 ものすごく綺麗だ……」
 コナンはすでに蘭を直視することができず、俯いて視線を逸らせて呟いた。
「そんな、綺麗な蘭ねーちゃんを、あれ以上誰にも見せたくなかったんだよ……
 特に、 あんな野郎なんかには……」
 ぼそぼそと小声で言った声は、誰もいない上に、
 雪が周りの音を全て消し去っている おかげで、蘭の耳にはっきりと届いた。
(それって…………)
 そのコナンの態度と心の内を知り、蘭は1つの結論に思い至った。
(そう思っても、いいのかな……?)
 嬉しさのあまり、蘭は笑みを零さずにはいられなかった。
 蘭から目を逸らしているコナンは、
 蘭が極上の笑みを浮かべていることに気付いていなかった。
 蘭はコナンの横にしゃがむと、
 コナンの胸についた雪玉のような飾りをぴん、と指で弾いて言った。
「コナン君も、この服よく似合ってるよ? すっごく可愛くて」
 驚いた顔をして思わず蘭の顔を見たコナンに、蘭はにっこり笑った。
「ねえ、聞いてもいい?」
「何?」
 蘭は最後の質問をコナンに投げかけた。
「どうして、わたしを誰にも見せたくなかったの?」
「そっ、それは……!」
 予想外の質問に狼狽しつつ、コナンはいつものように誤魔化そうとした。
 が、その瞬間、蘭があの万引き犯に言った言葉が脳裏を過ぎった。


『たった一言、その想いを表す言葉があれば……
 他には何も、いらないんです……』


 本当は、“工藤新一”に戻ってから伝えようと思っていた言葉。
 しかし、それはいつ叶うのかわからぬ望み。
 だが蘭は今欲しがっている。その言葉を。
 だったら……“コナン”として“コナン”の気持ちを伝えよう……。


「それは?」
 蘭がにこにこしながら少し意地悪な口調で聞き返してきた。
 コナンはふっと息を抜くように笑って、蘭に言った。
「それはヒミツ♪って言いたいとこだけど、
 今日はクリスマスだから蘭ねーちゃんに プレゼントするよ。 ボクの気持ち」
「?」
 蘭の瞳が不思議そうに瞬いた。


「それはね……蘭ねえちゃんが好きだから。
 独り占めしたくて、誰にも見せたくなかったんだよ?」


 澄んだ瞳で眼鏡の奥からまっすぐに見つめられ、蘭の頬が紅く染まった。
「……それ、本当?」
 そんな風に言ってくれるなんて思っていなかった。
 にわかには信じられなくて、蘭は思わず聞き返していた。
「本当だよ。 じゃあ、それを証明してあげる。 目を閉じて?」
 言われた通り、蘭はゆっくりと目を閉じた。
 間もなくして頬に温かい息が掛かり、やわらかなコナンの唇が触れた。
 それに驚いて、蘭は思わず片目を開けてコナンを見た。
 嬉しくて、無意識のうちに笑みが零れる。
 コナンが唇を離すと、蘭は美しい笑顔を湛えてコナンに言った。
「ありがとう、コナン君。 すっごく嬉しいよ…………
 じゃあ、今度はわたしからプレ ゼントをあげる。 今度はコナン君が目をつぶってね」
「……うん」
 コナンは蘭に言われるまま、素直に目を閉じた。
 蘭はコナンの頬を両手でそっと包み込むと、
 さっき頬に触れたコナンの唇に、自分の唇を軽く重ねた。
(えっ!?)
 コナンが驚いて目を見開いたときには、もう蘭の唇は離れていた。
 蘭は硬直するコナンの身体をぎゅうっと抱き締め、囁いた。
「わたしも好きよ…………あなたが……」


 気付いてくれて嬉しかった
 教えてくれて幸せだった
 だからもう、他のことは何も聞かない
 それ以外のことは、必要ないから……


 その後、事件のあった店に何度か行くことがあったが、
 コナンはあの店長に、何も文句は言わなかった。





* * * * * * * * * * * * * * *



とあるサイト様で素敵なコ蘭のクリスマスイラを拝見し、勢いだけで寄贈した品。
我が家で現在稼働できるPC内には、当時保存したそのイラストもこの作品自体も
バックアップが取られていなかったのですが、
寄贈先のサイト管理人様に問い合わせてみたところ、快くデータを送っていただけました。
そのサイト様は現在コナンコンテンツがありませんので、里帰りでこちらへUPです( ´▽`)
今まで大切に保管してくださいまして、ありがとうございました!

書いた時期は、おそらく2001年のクリスマス前かと思われます。
自サイトを2002年に開設したので、その前だったんじゃないかなー、と……。

数年ぶりに読み返してみたわけですが……
自分的にイマイチつまらなかったと思われる箇所はなんて淡々とした文章なんでしょ(笑)
後の方で2人きりになったところは、すごく楽しく書いてたんだろうな……
と窺えるくらい楽しそうです。わかりやす!(爆)


(2007.11.5)