春の夜の現  〜春の夜の夢 Conan view 〜     草紙剥 作


昨日とは、打って変わって暖かくなった、ある早春の午後。オレは少年探偵団に付き合わされて、外出していた。
『班ごとに新聞を作れ』という宿題が出たため、街に事件を捜しに繰り出すことになってしまったのだ。
事件なんて、そうそう起きるものではない……適当に、何かのイベントとか取材して終わらせよう、と言ったのだが、奴らが承諾するはずもなく、2時間ほど、無駄に歩き回された。
その執念の賜物か。些細な窃盗事件に出くわした。
すぐに捕まえられるだろう、と思ったのだが、思いの外、犯人の逃げ足は速く、1時間ほどの追跡劇を展開した挙げ句、見事お縄にすることができた。
その後、警察で簡単に事の顛末を話し、事件のあった店からお礼をもらい、帰路に就いたのは、日も暮れかかった頃だった。
探偵事務所の扉を開けると、そこには誰もいない。
おっちゃんは……麻雀にでも出かけたか。
オレは、探偵事務所を出て、階段を上った。
……それにしても、腹減ったな。まあ、散々歩き回されたんだから、当然か。
蘭は今日、出かけていたはずだが、もう帰ってるかな……。
玄関の扉を開けると、蘭の靴があった。それを見つけて、ホッとする。
今日の晩飯は、早めに作ってもらうように、交渉しよう……。
そう考えて、家の中に上がったが……どうも、様子がおかしい。
もう暗くなってきているというのに、どの部屋にも灯りがついていないのだ。
一通り、家の中を見回って、最後に蘭の部屋に行く。
「……蘭ねえちゃん?」
蘭の部屋のドアが少し開いていたので、そっと覗き込んで、オレは仰天した。
「わっ!!!ごごごごごめんなさいっ!!!」
慌てて顔を引っ込めた。
そこには、ずいぶんと薄着な蘭がいたのだ。
なんだよ……着替えてんなら、ちゃんとドア締めとけよな……。
一気に心拍数と血圧の上がったオレは、動揺して、自分勝手な言い訳をする。
しかし、それに対して蘭の返事どころか、動く気配すらない。
……そういえば、さっき部屋を覗いたときに、蘭は何かに凭れるように座り込んでいたような?
それに、部屋も散らかっていたようだし……まさか!?
オレは嫌な予感がしてきて、ドアを開けた。
「蘭!」
駆け寄って揺さぶろうとしたが、露出された美しい肌が目に眩しく、伸ばしかけた手を止めた。
薄暗さも手伝って、妙に艶めかしく見えてしまう。
ハハ……こんなときに、何ドキドキしてんだ?オレ。
だいたい、水着ん時は、もっと露出度高いじゃねーか……。
って、こんなこと考えてる場合じゃねぇ!
自分に一喝して、蘭の顔をそっと覗き込んだ。規則的な呼吸が聞こえる。
……眠ってるだけ、か?
辺りの様子をよく見てみると、クローゼットが開けっ放しになっていて、服やら衣装ケースやら防虫剤やらが並べられてある。
……もしかして、衣替えしながら寝ちまったのか?こんなカッコで?
できるだけ、蘭の肌を見ないようにしながら、蘭の様子を窺った。
蘭は、衣装ケースに凭れ込んで……ん?何持ってんだ?服?
服をしっかりと抱きかかえたまま眠っている。その表情は……何故か幸せそうに見える。
どういう訳でこうなっているのかはよくわからないが、とりあえず、泥棒が入った、とかじゃなさそうだ。
安心して、ホッと溜息をつく。
起こして飯を作ってもらいたいところだが、こんな顔で気持ちよさそうに寝息を立てられているんじゃ、起こせねーな……。
オレは、ずっと手に持っていた、事件解決のお礼にもらった品を床に置き、毛布を引っ張り出した。
「そんなカッコでいたら、風邪ひくぞ……」
呟いて、蘭の身体に羽織ってやった。
すると、蘭の表情がふわぁと綻び、嬉しそうに微笑んだ。
ドクン、と心臓が一際大きく鳴り、オレはその柔らかな微笑に捕らわれ、動けなくなった。
そのまま、しばらく呆然と蘭を眺めていたが、身体が動けるようになったことに気付くと、無意識のうちに蘭に手が伸びていた。
「蘭……」
蘭に触れようとしたとき、部屋の外でガタン、と物音がしたので、オレは慌てて手を引っ込めた。
おっちゃんが帰ってきたのか?
オレは床に置いてあった品を取り、蘭の部屋を後にした。
そのとき、事件のあった花屋からもらったお礼の品……早咲きの桜の枝……から数枚の花びらがこぼれ落ちたが、オレはそれには気付かなかった。


翌日。
オレが目を覚ました頃には、蘭はもう出かけていていなかった。
確か、午前中だけ空手部の練習がある、と言っていたな……。
結局、昨日はあれから、帰ってきたおっちゃん……麻雀ではなく、タバコを買いに行っていたそうだ……と共に、出前を取って夕食を済ませた。
蘭の目が覚めたのは、それから2時間ほど後のことで……夕食が間に合わなかったことを謝っていたが、なぜか嬉しそうな顔をしていた。
そのためか、えらく豪勢な朝食を用意してくれていた。
オレも、今日はまた出かけなきゃなんねぇ……昨日の事件現場の写真を、もう少し撮っておきたい、などとアイツらが抜かしやがった。
まったく、それなら勝手に行って勝手に撮ればいいのに「少年探偵団は、いつも一緒に行動しないと!」と口を揃えて言いやがる。
ハァ……しょうがねぇ……。
溜息をつきつつ、身支度を整え、重い足取りで待ち合わせ場所に向かった。

「えっと、ここはこんなもんでしょうかねぇ」
「あ、光彦君!あそこも撮っとかなきゃ!」
「それと、あっちの方も忘れてるぜ!」
カメラ係の光彦を中心に、元太と歩美が楽しそうに騒いでいる。
ちなみに、灰原は……。
『今日は博士の手伝いをする約束だから……。ごめんなさいね……』
だそうだ。本当は、灰原が博士の手伝いをするんじゃなくて、博士が灰原の手伝いをするんだろうけどよ。
大体いつも、なんで灰原の欠席は認められて、オレの欠席は認めてもらえないんだ?
「お〜い、光彦!ここの学校も撮っとこうぜ!」
そうだ……昨日、犯人追跡のとき、帝丹高校も通ったな。
時計を見ると、もう正午を過ぎていた。
ちょうど、空手部の練習も終わり、そろそろ蘭が出てくる頃だ。
「じゃあ、次!あっちよ!」
地図を手にした歩美の合図と共に、元太と光彦が走っていく。
「あ……!ちょ、ちょっと待てよ!」
少し追いかけて呼び止めたが、さっさと行っちまいやがった。
振り向いて校門の方を見ると、思った通り、蘭が出てくるのが見えた。
「蘭ねえちゃ……」
声をかけようとしたが、何か様子が変だ。
急に立ち止まると、ふふふ、と突然笑いだし、そうかと思うと、今度は慌てた様子でキョロキョロしている。
何やってんだ?蘭のヤツ……。
周りに誰もいないことを確認したらしく……いるんだけどよ……ホッと息を吐いて、また歩き出した。
オレはそっと後をつけて行った。


蘭は、いつもの道を、いつも通りに歩いていく。
特に変わった様子もないので、今度こそ声をかけようとしたその時、異変は生じた。
いつも渡る横断歩道を渡らず、普段ほとんど行くことのない方角へ向かっている。
おいおい、そっちは探偵事務所とは反対方向じゃねーか。それとも、妃法律事務所に……いや、あそこに行くのはこの道じゃない……。
蘭は軽やかな足取りで、どんどん町外れへと向かう。
どこへ行くつもりなんだ?
角を曲がると、橋が見え、そこを迷うことなく渡っていく。
あれ?この橋は……。
その先は緩やかな坂だ。
そうか!この道は……!
蘭はあそこに行こうとしてるのか。ということは……何かあったのか?
もう、あの場所には何年も訪れていない。それは、蘭が行かなかったからだ。
昼でも暗い林の出口から、久しぶりにその景色を見た。
まるで、その古木のために、他の木々が入ることを躊躇ったのでは、と思わせるような、開けた場所。
中央に聳え立つ、大きな桜の木。
その下で、蘭が佇んでいた。
ゆっくりと、静かに近づいて行く。蘭は気付かない。
何やら、物思いに耽っている様子だ。昔と同じように。
……いや、あの頃とは違う……今日は、やけに楽しそうに見える。
それでも、ここで蘭に声をかけるのは、緊張する……。細心の注意を払う癖がついているのだ。
蘭の後ろの、少し離れたところで足を止める。
早春独特の、ほんの少し冷たさの混じった爽やかな風が、蘭の美しく長い髪をなびかせている。
それに見惚れて、知らぬ内に微笑が漏れていた。
声をかける機会を窺っていると、蘭が先に振り返った。
「…………!」
蘭は驚いて目を見開いた。
「コナン君……」
しかしそれは、オレを見てすぐに微笑へと変わった。
「いつの間に……?どうしてここへ……?」
一呼吸おいてから、質問に答える。
「……ついさっき。ボク、学校の近くで蘭ねえちゃんを見かけたんだけど、家と全然違う方に行っちゃうんだもん。声かけようと思ったんだけど、蘭ねえちゃん、歩くの速くて……。結局、ここまでついて来ちゃった。キレイな場所だね」
歩くのが速い、というわけではなかったが、蘭の足取りが軽く、躊躇うことなくここに向かっていたのは確かだ。
オレは、さも初めてここに来たかのようなセリフを付け加え、にっこり笑った。……笑って話しかけるのは、ここへ来ていたときの癖だが。
「蘭ねえちゃんこそ、どうしてここに来たの?」
オレが最も気になっていることを、何も知らないコナンとして、思い切って単刀直入に訊いてみた。
「わたし?わたしはねぇ……」
うふふ、と小さく笑って、
「……なんとなく」
と、蘭は答えた。
なんだ?特に何もないのに来たのか?
それに、さっきからずっとにこにこ笑って、嬉しそうにしている。
どうも蘭がここへ来た理由は、オレの危惧していることとは違うようだが……。
考えていることが顔に出てしまっていたのだろうか。蘭がその理由を自ら話し出した。
「ふふふ、実はねぇ……。昔、よくここに来ていたことがあって……そのこと、ずっと忘れてたんだけど、昨日、夢を見て思い出したの……」
「夢?」
あの頃の夢を見たのか?
何年も、この場所に来なかったのは、忘れていたからか……。
「そう。夢の中ではね、月夜で、この桜も満開で、すごくキレイだったんだけど……」
ああ……それは……。
オレが初めて、蘭を追ってここへ来たときの……。
それは、幼き日の出来事。
蘭と遊ぼうと、誘いに行ったら、おっちゃんとおばさんが、蘭がいなくなった、と騒いでいた。
散々心当たりの場所を捜したが見つからず、すっかり暗くなってからここに辿り着き、ようやく蘭を見つけたのだった。
そのとき二人で、月明かりに浮かび上がる美しい夜桜と、舞い散る無数の花びらを、いつまでも眺めていた。
「……今の桜も、キレイだけどね」
まだ三分咲きの桜を見上げ、蘭は言った。
蘭は、あのことまで憶えているのだろうか?
それとも、意識の奥底に、潜在しているだけなのか……。
「わたしね、昔、イヤなこととか、悲しいこととか、辛いことがあったときに、一人でここに来て、その辛い気持ちに耐えていたの……。そしたらね、後から必ず新一が来てくれて、よく励ましてくれた……」
あの日、蘭の両親が今までにない大喧嘩をしでかし、それを子供心にただ事ではないと感じ取った蘭が、家を飛び出したのだ。
オレがここで蘭を見つけたとき、蘭は目を泣き腫らしていた。
初めて見た両親の態度にショックを受け、言い知れぬ不安に怯えていた。
その姿はオレの知っていた蘭とはまるで別人で、弱々しく、また小さく見えた。
直感的に、いつもの接し方をしてはいけないと感じたオレは、蘭を落ち着かせ、元気づけようと、必死になって笑顔を作り、いろいろな話を蘭に聞かせた。
その後も、何か辛いことがあると、蘭はここを訪れ、その度に、オレも蘭を追って、この場所に来ていた。
「わたしが元気になるまで、ずっと一緒にいてくれた……。いつの間にか、ここに来ることもなくなって、忘れてしまっていたけどね」
いつしか、蘭が落ち込んでここに来たときは、オレが慰め、励まし、元気な蘭を呼び戻すのだと思うようになっていた。
最後に来たのは、蘭が忘れてしまうくらいの過去になっていたんだな……。
だが、久しぶりに訪れた今日は、その役目は必要なさそうだが……?
「ふぅん……そうなの……。でも、蘭ねえちゃん、今日は違うみたいだね?」
「え?何が?」
「だからさ。今日はイヤなことがあったから来たんじゃないんだよね」
「……うん。そうよ!」
咲き始めた桜の花のように、蘭は微笑んだ。その言葉と表情を見て、オレも安堵し、自然に表情が綻んだ。
心地よい空気が柔らかな風となって、オレ達をふわりと包み込んだ。その刹那、
「おーい、コナンーーーー!」
「コナンく〜〜ん!」
「みんな、待ってよ〜〜!」
後ろから近付いてくる耳慣れた声。
声の主達は、見なくてもわかる……。
「……なんだよ、なんでお前らまでここに来るんだよ!」
いい雰囲気を台無しにされて、つい本音が出てしまった。
オレが途中でいなくなったから、捜して後をつけて来やがったな?
蘭に気を取られ、つけられていることに気付かなかったオレもオレだが……。
「ハァハァ……やっと追いついたぜ……」
「わ〜!きれ〜い!」
「……そうだ!写真撮りましょうよ!ちょうどボク、カメラ持ってますから!」
呆気にとられて見ていると、光彦がてきぱきとカメラの用意をしだした。
「じゃあ、まず、コナン君とお姉さん、一緒に撮ってあげますよ!」
なに?なんでいきなりオレと蘭なんだよ?景色を撮るんじゃねえのかよ?
「ええ〜?いいよ……」
「いいじゃない!撮ってもらおうよ!ね?」
断ろうとしたが、蘭があまりにも嬉しそうで、これ以上ないくらい、その笑顔が綺麗だったから、つい、
「うん……」
と言ってしまった。
「じゃあ、いきますよー!はいっ、チーズ!」
カシャッ、とシャッターが切れる。
「光彦君、ありがとう。じゃあ、次はわたしがみんなを撮ってあげる!」
「え〜!ほんとですかぁ!」
「おねがいしま〜す!」
「カッコよく撮ってくれよな!」
蘭が光彦からカメラを受け取り、構える。
「じゃあ、いくよ〜!1たす1は〜?」
「に〜〜〜っ!」
「……あれ?」
「どうしたの?」
「シャッターが下りないよ?」
「?ちょっと見せてください……」
蘭がカメラを渡す。
光彦がカメラを調べ、元太と歩美が心配そうに横で見ている。
その間に、蘭は、
「なんか、暑くなってきたね!ブレザー脱いじゃおうっと!」
そう言って、上着を脱いだが……ん?
肘のところに……いつもあんなの、つけてたっけ?
「あれ?蘭ねえちゃん、それ……」
「ああ、これ?今日だけよ。うふふ……」
それだけ言って、嬉しそうに笑う。
オレは訳がわからず、そんな蘭を眺めていたが、眺めているうちに、あることに気付いた。
よく見ると、シャツの合わせがいつもと逆だ。
ということは……蘭が着ているのは、男物?
なんで、そんなものを着ているんだ?洗濯が間に合わなくて、おっちゃんのを着たとか……?それにしては、妙に嬉しそうにしているし……。
それとも、学校で、服を汚すかなんかして、誰か他の男に借りたのか?
いや……借りるんなら、女友達に借りるだろう……。じゃあ、なぜ?
まさか……まさか、な……。
急に黙り込んで、蘭のシャツを怪訝な顔で眺めているのを不審に思ったのか、蘭が訊いてきた。
「なに変な顔してんの?」
「え?別に ……」
言いかけたが、やはり思い切って訊いてみることにした。
「あ、あのさ、蘭ねえちゃん……」
「なに?」
蘭は相変わらず、にこにこしている。
「そのシャツ……お、男物、だよね……」
言った途端、蘭の頬が赤く染まった。
げ!なんだよっ!その反応は!
「……わかっちゃった?実はねぇ、これ……」
はにかみながら、嬉しそうに小声で話し出す。
次に誰の名前が続くのかと、心臓の音が鼓膜に直接響くほど、オレはドキドキしていた。
「新一のなの。……みんなには内緒よ」
へ?オレの……?
なんで、蘭がオレのシャツを着ているんだ?……オレの知らないところで。
「し、新一兄ちゃんの?……なんで?」
上擦る声で、つい訊いてしまった。
すると蘭は、さらに顔を紅潮させて言い放った。
「な、なんでって……!これ以上は、コナン君にも内緒!」
蘭はなぜか慌てていたが、顔を赤らめながらも、やはりどこか嬉しそうだ。

なぜオレのシャツを蘭が持っていて、着ているのか。
なぜそんなに嬉しそうにしているのか。


その謎は、今も迷宮に入ったままだ。



FIN




おまけ  〜Detective Boys view〜

「おい、光彦、ここも撮っとけよ!」
「はいはい……っと。さて、もう撮るとこはないですか?」
「うん。こんなもんだよね?コナンく……あれ?」
「どうしたんですか?」
「コナン君、いないよ?」
「また、アイツ、勝手にどっか行きやがったな?」
「ちょっと、捜してみよっか?」
「さんせーい!」

「おい、いたぞ!あそこ!……ん?なにやってんだ?」
「誰かを尾行してるみたいですね……」
「もしかして、事件!?」
「お〜い!コナ……」
「しっ!犯人に気付かれたら、どーするんですか!」
「じゃあ、静かに近付いて、コナン君と合流しないと……」
「……ちょっと待て。オレにいい考えがあるぞ」
「え?な〜に?元太君」
「どーせコナンのことだから、今ここでオレ達が声をかけたら、帰れって言われるぞ」
「そうですねぇ……」
「だからさ、このままこっそり、後をつけて行こうぜ?」
「さんせーい!」

「……なんだか、すごいところに来てしまいましたねぇ」
「うん……暗いし、なんか不気味だね……」
「お、見てみろよ!あそこ!」
「すごーい!大きな桜の木!」
「その下にいるのは……コナン君と……コナン君とこのお姉さんですね……」
「なあんだ!コナン君が追いかけていたのは、犯人じゃなかったのね!」
「よし、じゃあオレ達も行ってみようぜ!」
「あ、待ってください!元太君!」
「なんだよ、光彦」
「なんか……ラブラブって感じじゃないですか?邪魔しちゃダメですよ……」
「そうかぁ?」
「うーん……どうかわかんないけど、なんか入って行きにくい雰囲気よね……」
「別にいいじゃねえか!オレは行くぜ!」
「あー!もう……仕方ありませんね……待ってくださ〜い!」
「ちょ、ちょっとー!わたしも行くー!」

「おーい、コナンーーーー!」
「コナンく〜〜ん!」
「みんな、待ってよ〜〜!」
「……なんだよ、なんでお前らまでここに来るんだよ!」
「ハァハァ……やっと追いついたぜ……」
「わ〜!きれ〜い!」
「……そうだ!写真撮りましょうよ!ちょうどボク、カメラ持ってますから!
 じゃあ、まず、コナン君とお姉さん、一緒に撮ってあげますよ!」
「ええ〜?いいよ……」
「いいじゃない!撮ってもらおうよ!ね?」
「うん……」
「じゃあ、いきますよー!はいっ、チーズ!」
「光彦君、ありがとう。じゃあ、次はわたしがみんなを撮ってあげる!」
「え〜!ほんとですかぁ!」
「おねがいしま〜す!」
「カッコよく撮ってくれよな!」
「じゃあ、いくよ〜!1たす1は〜?」
「に〜〜〜っ!」
「……あれ?」
「どうしたの?」
「シャッターが下りないよ?」
「?ちょっと見せてください……」
「大丈夫?光彦君……」
「なおんのか?」
「ええ……多分……」
「フィルム、終わっちゃったんじゃないの?」
「ここ『24』になってるぜ?」
「そんなはずは……今日はたくさん撮るから、36枚撮りを入れたはずなんですが……」
「そうなの?」
「もったいないけど、もう巻き取ってみたらどうだ?」
「そうですね……ああーっ!」
「どうしたの?」
「どうしたんだ?」
「……お二人の推理通りです……入れたのは24枚撮りの方でした……」
「新しいフィルムはないの?」
「はい……」
「なんだよ、じゃあオレ達のは撮れないのか?」
「え〜〜〜、残念……」
「申し訳ないです……」


おしまい