泣かないでおこう。
泣いちゃだめ。
泣くのを止めないと。

そう思えば思うほど、目の奥から熱いものが湧き上がってくる。

それは、小さなみずたまりのように、縁に溜まっていく。
しかしすぐに、こらえきれずに溢れて流れ落ちた。

頬をつたいかけたそれの行く手を、ひんやりしたやわらかい感触が阻んだ。
もう片方からこぼれた雫も、同じように阻まれる。

最初、ひんやりしていると感じたそれは、すぐに熱を持った。
ああ、それは自分の熱い雫の熱が移ったのだ。
もともとはひんやりしているのが普通の温度であって、自分が熱を持っているのかもしれない。

決して嫌ではない、むしろ心地よささえ感じる感触。
雫が落ちるたびに、そこに触れ、流れを止める。
しかし、涙は留まることを知らず、流れ続け、次第に落ちるのが速くなる。

泣くのを止めないと。
泣いちゃだめ。
泣かないでおこう。

思いとは裏腹に、涙の量は増えるばかり。
追いつかなくなって、ついに……すっかり熱が移ったやわらかな感触は、目を覆った。
左から湧き出るみずたまりを受け止めた後は、右へ。
右からこぼれ落ちる雫を阻んだ後は、左へ。

いつもは『泣かないで』と言われるのに。
今日は、何も言わずに、受け止めてくれるだけ。
それは、泣いてもいいってこと?

そう思った途端、堰が切れた。
とっくに酷くなった顔がこれ以上酷くなるのを見られたくなくて、彼の胸に顔をうずめた。
嗚咽を漏らし、しゃくりあげて号泣する背中を、温かい手がそっと包み込んだ。
まだ小さな手なのに、その存在はとても大きかった。
何も言わない、彼の優しさが伝わってきて、それが余計に涙を止まらなくさせた。




2004.5.15






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「キスについての20のお題」というのを余所で見かけて、
やってみたい! と思ってその中のお題の1つ「目」を書いてみたもの。
サイト運営時に拍手お礼として、このお題で短いのをいくつか書いて載っけよう〜( ´▽`)
と思っていて、結局これ1つしか書かず拍手にも載っけずお蔵入りになったという品でした('A`)

ちなみに、お題配布先のリンクを貼ろうと思って調べたら、なくなっちゃってました……残念。

(2007.10.30)